アジア占い紀行
第1回
マレーシアの占い師「ボモ(Bomoh)」



イポー近郊の村で病気の女性を治療するボモ

 多民族国家マレーシアですが、東南アジア諸国の中では、けっして占いが盛んな国とは言えません。首都クアラルンプールのように多くの人種・民族が混在して暮らす大都市部では、中国系、インド系など各人種や民族ごとにその民族固有の占いが日常生活の中に浸透しています。例えばマレー人以外で最も人口比が多い中国人社会では「風水」や「吉祥信仰」が日常生活の中に浸透している状況が見られます。
 しかし、イスラム教徒が大半を占めるマレー系イスラム教徒の間には、目立った伝統的、特徴的な占いがありません。その代わり、地方都市や農村地域においては前述したボモ(祈祷師)が、占い師の役割を果たしているのです。

 インド、ネパール、タイ、ベトナム、ラオス、カンボジア、インドネシアなどアジアの諸国はどこも、人種構成だけでなく複数の宗教や文化が混合し、さらに山岳部住民や少数民族を中心に土着の文化や信仰がいまだに日常生活の習慣に根付いている例が多く見られます。そんなアジアの国にあってマレーシアは、土着の信仰や生活習慣が色濃く残るエリアが特に多いのが特徴です。大都市部を除いて国土の大半を占めるマレー半島の農村部やボルネオ島の山間部などでは、歴史上の諸年代に入ってきた複数の宗教の影響に加えて、土着の精霊信仰や民族的生活習慣が混ざった独特の風習が、今もって広く見られます。具体的には、ヒンズー、イスラムの規範や習慣が混在する中で、精霊信仰が大きな影響力を持っているのです。そこでは、ボモ、モーピー、ドゥクンなどと呼ばれる人々が、祈祷師やシャーマンのような精霊と人との仲介者として日常生活の様々な分野に関わっています。

 マレーシアにおいては、こうした祈祷・霊媒を職業とする人々の呼称としては、前述した「ボモ」がもっとも一般的です。ボモは、マレーシア社会の中に完全に根付いており、農村部では「呪医」すなわち医師・薬剤師として住民の病気の治療や健康管理に当たる他、農村地方の住人の間に度たび発生する「amok」、すなわち「何かにとり憑かれた集団ヒステリー状態」の対処にも活躍します。さらにボモは、日常の儀式から、農作物の出来・不出来、雨乞いなど天候に関する祈祷、結婚や家庭の揉め事に関する相談など、日常生活の中のトラブル解決にも活躍します。
 地方においては、犯罪の犯人探しなど犯罪解決にボモが乗り出すことも珍しくなく、地方警察署の中には犯罪捜査に当たって常に専属のボモに相談をしているケースも見られます。また、犯罪被害者が個人でボモに犯人探しを依頼するケースもあります。

 ボモは、クアラルンプールなど都市部においても、相当数が活動しており、貧困層が病気の治療のためにボモに依頼する例が多いだけでなく、上位の社会階層の人間の中にも、個人や家庭内の様々な問題解決に当たってボモに依頼する例が見られます。

 こうしてみると、マレーシアにおけるボモというのは、祈祷師、霊媒師、占い師、さらには医師を兼ねる存在であり、こうしたシャーマンの存在は、現在でもアジア、アフリカ、南米などの未発達な社会ではかなり一般的に見られるものとは言え、マレーシアほど発展しつつある近代国家で、現代の日常生活の中に広く深くシャーマンが入り込んでいる例は、非常に珍しいと言えるでしょう。


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